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2008年02月26日更新
メドベージェフはリベラルか?

木村  汎

木村 汎・写真   3月2日のロシア大統領選でドミトリー・メドベージェフ氏の当選は確実視されている。なにしろ、圧倒的な人気と権威を誇るプーチン大統領が、己の後継者に指名した候補者だからである。ロシア内外では、メドベージェフをリベラルな思想の持ち主とみなして、新大統領がプーチン政権とは異なる改革主義的な内外政策を実行するだろうとの期待がある。私個人は、そのような見方に疑問を抱く。

  メドベージェフが「シラビキ」(siloviki)と関係をもたないことはたしかである。「シラビキ」とは、ロシア語の〝力〟を意味する「シーラ」から派生した用語。ものごとなかんずく紛争を〝力〟で決着させようとする傾向が強い人々を指す。具体的には、旧KGB(ソ連国家保安委員会)、内務省、検察庁、軍部など「力の省庁」にかつてまたは現在勤めている人々。「武闘派」と訳される。「シラビキ」は、プーチン政権の中核をなす側近のなかで一大勢力を結成している。メドベージェフは、サンクトペテルブルク閥の一員ではあるが、KGB系を中心とする「シラビキ」ではない。そのために、彼は「シビリキ」(civiliki=市民派)という渾名さえ献上されている。

  ところが、われわれは短絡したり誤解したりしてはならないと思う。メドベージェフが「シラビキ」と関係をもたない人物であることは、即ち彼がリベラルな思想の持ち主であり、「シラビキ」と対立する政策を遂行する――このことを、かならずしも意味しない。いや、メドベージェフは、ひじょうに多くの場合「シラビキ」と同一の考え方に立ち、彼らと協力してロシアの国策を実施する人物である。このことを証明する例を挙げる。

  メドベージェフは、2000年以来のプーチン政権のほとんど8年間にわたって、ロシアの天然ガス独占企業体「ガスプロム」の会長を兼任していた。ガスプロムこそは、ロシアの国策すなわち資源ナショナリズムの最も熱心な担い手にほかならない。まず、民間石油会社の大手のユーコス社を潰し、国営のロスネフチと統合させる。そのことを通じてエネルギー産業を再国有化する。――このような狙いを粛々と遂行するイーゴリ・セーチンをはじめとする「シラビキ」にたいして、メドベージェフは何ら異を唱えなかった。反対しないばかりか、その一端を担うことによって事実上の共犯者となった。

  また、メドベージェフ氏は、ガスプロム会長として「サハリン2」「サハリン1」などのプロジェクトからロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三井商事、エクソンモービルなどの外国資本を事実上追い出す急先鋒の役割をはたした。さらに、ガスプロム社は、ウクライナ、ベラルーシなど独立国家共同体(CIS)諸国にたいして、天然ガスの供給を一時中止した。そのことによってCIS諸国のロシア離れ、欧米接近を牽制することを狙いとする外交的圧力を加えた。
  エネルギー資源をフルに活用しての国際舞台における発言力の増大――このプーチン式外交の推進においてメドベージェフ氏がはたした機能は限りなく大きい。その役割は、セーチンら「シラビキ」と比べていささかも遜色ないといって差し支えないだろう。このようにして、クレムリンの忠実な代弁者以外のクレムリン・ウオッチャーたちは、メドベージェフが「シビリキ」に属する人物であるが故にリベラルであるとみなす見方に疑義を提出する。彼らの多くは、メドベージェフのリベラリズムを少なくとも限定句をつける。

  そのような見方を以下紹介しよう。たとえばウラジミール・ミロフ(元エネルギー省次官、現在「エネルギー政策研究所」所長)の評言。彼は、おそらく次官時代に上司メドベージェフによる「資源エネルギー外交」のどぎつい実践をまざまざと眼前に見せつけられて、失望し、退官した人物にちがいない。その点でミロフの発言は多少割引いて理解される必要があるのか。逆にかつて身近な立場にいた人間の証言として信憑性を増すのか。――この判断は読者に委ねることにしよう。ともあれ、ミロフの結論は、明解である。「メドベージェフはたんなるリベラルではない。」サム・グリーン(モスクワ・カーネギー・センター研究員)は、メドベージェフを「相対的に(relatively)リベラル」とみなす。もう一人の西側のクレムリン・ウオッチャーは、メドベージェフを「現状維持型リベラル」と定義する。全露世論調査センター所長のワレリー・フョードロフは、率直にのべる。「われわれジャーナリスや専門家のあいだでは、メドベージェフはリベラルとみなされているが、ロシア国民は彼をリベラルとは少しも考えていない」、と。

木村 汎:当研究所理事、北海道大学名誉教授