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2008年04月10日更新
日本はユーラシア西部・南西アジアの動向に注目すべきだ

西原  正

西原 正・写真 北東アジアは安定してきた

  冷戦後、国際政治の重心はヨーロッパからアジアに移ったとの見方が一般的になされてきた。そしてその際のアジアの重心は、冷戦の落とし子である朝鮮半島と台湾海峡であると認識されていた。この2ヵ所はいつ発火するか分からない地域(英語ではフラッシュポイント)ということになっていた。

  たしかに北東アジアでは、北朝鮮の核問題でこれまで周辺国はさんざん振り回されてきたし、台湾海峡を巡っても、1996年の台湾の総統選挙を牽制するために中国がミサイル射撃の訓練をし、それをまた牽制するために米空母が海峡近くにまで出動するという緊迫はあった。

  しかしこのいずれの地域でも、冷戦後の19年間に大国が絡む武力衝突は一度も起きなかった。2006年の北朝鮮の核実験も、米国などの武力による報復はなく、先月の台湾総統選挙でも民進党が台湾の独立指向を謳ったにも拘わらず、中国は武力による脅しはしかけなかった。米国はむしろここ数年、米軍再編の一環として在韓米軍を縮小し、在沖海兵隊8,000名をグアムに移転させる計画を発表してきた。北東アジアは一般に懸念されるより余程安定しているといえるのである。

ユーラシア西部・南西アジアは不安定

  これに対してユーラシアの西部、あるいはもう少し目を広げて、南西アジアであるインド亜大陸を含めて見ると、この地域はイスラム過激派勢力がテロリストを養成して世界に送り込み、そして活発なテロ活動をしている地域で、世界でもっとも不安定な地域の一つになっている。いうまでもなく、西はオセチア、チェチェン地域の独立分離運動、中央アジアのタジキスタン、中国新疆地方のウイグル民族の分離運動、アフガニスタンのタリバン勢力、パキスタンのタリバン支持勢力、バングラデッシュのイスラム過激派などなどが、注目される。(これに加えて、スリランカのタミール民族による分離主義闘争も、北朝鮮からの武器購入が発覚するなど、激化の様相を呈している。)

  さらに現在は北京オリンピック開催が近づき、中国の威信を傷つける好機と見てのことだろうと思われるが、チベット人の反漢族支配抵抗、ウイグル人の分離主義デモ、ネパールでの反中デモ、さらにはベトナムでの反中デモなど、中国の影響力拡大への反感の動きが見られる。

  こうしたユーラシア西部や南西アジアの不安定な動きは比較的安定を保ってきた北東アジアと対蹠的である。この格差の原因は、北東アジアでは米国、日本、韓国、そして中国の役割が比較的明確に相互に理解されているのに対して、ユーラシア南西部、南西アジアでは、大国の役割が明確に定義されていないことにある。北東アジアには、日米同盟、韓米同盟、あるいは米台関係法があって地域の安定を生み出す基盤をなしている。アフガニスタンなどは国家の体をなしていないこと、そしてアフガンとパキスタンの国境が確立していないことが、タリバンの跋扈を許している。北大西洋条約機構(NATO)加盟国を中心に構成する国際治安支援部隊(ISAF)や米軍はタリバンを追跡しても、パキスタン国境までしか作戦ができないでいる。その上、パキスタンと米国の軍事協力がうまく機能しておらず、米国の役割が明確ではない。

中露関係は良好ではない

  これに加えて、最近、中国とロシアの関係が良好ではないことが伝えられている。長い間、中国はロシアから大量の兵器を購入してきた。中国が西側から兵器禁輸措置を受けているのでロシアに依存してきたところがあり、ロシアもソ連崩壊後の経済の疲弊を救う手段として中国に武器を売却してきた。数年前までは、ロシアは年額20億ドルに相当する兵器を売却する年もあったが、2006年からはほとんどゼロになっているという。これは、中国がロシアから兵器の完成品でなくライセンス生産を求め、軍事技術の移転を要求しているからだという。また中国自身が高質の兵器自主生産をしだしたともいわれる。逆にロシアは中国に拒否した兵器(例えば、第5世代戦闘機)をインドには売却しているという。

  また中国の主導で組織されてきた上海協力機構(SCO)に対して、プーチン大統領は主導権を取ろうとして中国と競合しているといわれる。最近会ったロシア人学者も、「中国の脅威」を説いていた。今後中露関係が悪化すると、中央アジア諸国への石油の利権をめぐる中露の争奪が一層激しくなるであろう。そうなると、中央アジア地域が一層不安定になる可能性がある。   日本は、ユーラシア西部の動きがイラク、イランなどの安定にも影響をすることを認識し、地政学的にも重要なユーラシア西部および中央アジア、南西アジアの動向に、もっと注目する必要がある。

西原 正:当研究所理事、平和・安全保障研究所理事長、前防衛大学校校長