特定非営利活動法人 ユーラシア21研究所
特定非営利活動法人 ユーラシア21研究所 ありがとう競艇 日本財団 サイトマップ お問い合わせ RUSSIAN
HOME研究所概要虎ノ門フォーラム視点・発信情報公開

視点

2008年07月11日更新
中国文明と「同化」

坂本  正弘

坂本 正弘・写真
  去る6月17日夜、ユーラシア21研究所主催の虎ノ門フォーラムで、ペマ・ギャルポ桐蔭横浜大学教授の講演があったが、大変印象的であった。その中で漢民族のチベット移住が加速し、ラサ市の人口37万人のうち、今や漢民族が20万人を超える多数派となったとの指摘があった。チベットの人口全体では、なお、チベット人は90%を越える多数派であるが、ラサでの事態は今後、地方にも急激に拡大することが予想される。

  筆者はかつて、シルクロードに妻と旅行をし、敦煌から新疆のウルムチ、トルハンに足を伸ばしたことがある。カレイズの地下水を利用して、葡萄、棗などを栽培する状況を楽しんでいたが、省都・ウルムチで、東京に留学したウイグル族出身者がガイドのいない時を見計らって、筆者に話かけてきた。彼は、漢民族が新疆省に多数移住し、特にウルムチ市では今や多数派になり、ウイグル族を圧迫していると不満を述べた。共産党が手配して、高い地位、収入のよい職業はすべて共産党・漢民族が独占するため、権力と高収入を目指して、漢民族が急激に流入し、在住のウイグル族は隅に追いやられ、石油収入も現地に還元されず、搾取されているとした。

  確かに、筆者に随行した通訳 (高収入) はすべて漢民族であったが、漢民族はウルムチのみならず、新疆省全体でも多数派になり、「同化」が急速になっている。このような漢民族による「同化」がチベットでも進行し、権力とよき生活、高収入を誇る移住漢民族への反発が、チベットでの暴動の背後にあると考えられる。

  だが、「同化」は中国の歴史に付随したものである。中国の人口を見ると、総人口13億人のうち、漢民族が95%を超えているが、これは、同じ多民族国家・ロシアでは、ロシア人は5割を切り、減少を続けているのと比較すると対照的である。漢民族による「同化」の強さを示しているが、ペマ・ギャルポ教授の指摘するように、中国では満州族、蒙古族、回族とも、かつての居住地域で少数派になり、固有の文字を失い、漢民族に同化されている。

  筆者はかつて『中国・分裂と膨張の3000年』(東洋経済新報社1999年)を書いたが、その大きな理由は、中国は分裂と統合を繰り返しながら、常に「同化」を拡大してゆく、そのアミーバーのような同化力に驚嘆したためである。中原で諸部族の混交の上、成立した漢民族は殷、春秋・戦国以来、長い歴史を経て、版図を拡大し、同化を広めた。北や西から、幾度か、遊牧民の進入を受け、漢民族は四方に分散するが、これは 再び、同化・統合、膨張する過程であった。特に、秦の始皇帝以来の歴代の皇帝にとって「大一党」(統一を尊ぶ)は重要なモットーであり、同化・統合は中国支配層のDNAとなっていると考えている。

  元の中国支配は漢民族の南への分散・移住を促進したが、そこから南出身の明朝が逆に天下を統一した。近代を考えても、清の発祥地は満州で16世紀頃の人口は200万人だが、日本の統治時には3000万人に拡大し、今や、1億人をはるかに越え、シベリアに流出している。この間、満州八旗を誇った満州族は中国全土に散らばり、現代は固有の文化を失い、内蒙古では少数派である。そして、同化は今や、新疆省、チベットに進んでいるが、台湾もその脅威にさらされているといえる。韓国とヴェトナムは中国文明の強い照射を受けながら、同化されなかったのは例外ともいえる。

  同化は中国の専売特許ではない。ローマも、アメリカも、その優れた文明力により、同化を実現している。しかし、その同化は、進んで市民権を求めることに示されるように、自由意志での同化の面が強い(黒人は別だった)。この点、中国の同化は、政治支配の中の強制的同化であった。現在の中国に、自由意志を持って、他民族が移住し、自発的に同化する文明力があるとは思えない。

  逆に、中国人の世界への流出は、現在大量かつ急激である。東南アジアには多数の華人、華僑がいるが、アフリカでは70万人を超える中国人が進出している。米国、欧州での増加は目を見張るものがある。グローバリゼーションの中、世界の人口の5分の1が中国人なのだから当然かもしれない。

  これまでの、中国人は中華街を形成するが、摩擦を避け、政治に関与しないといわれてきた。しかし、アフリカでは摩擦が顕在化している。米国でのチャイナ・ロビーの力は日本の国連加盟、慰安婦問題で知らされた。更に、オリンピック聖火での、海外中国人の並走は、ナショナリズムを強めた中国人の団結力を世界に印象付け、警戒心を強めさせている。その強制的同化力とナショナリズムが今後どのようになるのか?世界との摩擦を強めないことを改めて、願うものである。

坂本 正弘:日本戦略フォーラム副理事長