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2009年06月02日更新
「米中G2体制の形成そして日米同盟の解体」

田代  秀敏

    
  米国と中国とが世界を共同で統括する米中G2体制が急速に構築されつつあり,その陰で日米同盟はなし崩しの解体を迎えつつある。

  米中G2体制のアイデアは,米国の金融危機が深刻な様相を呈し出した2008年夏に米国側から提案された。

  米国政治ではシンクタンクが非常に重要な役割を果している。その中で米国の政策決定に最も影響力がある政策シンクタンク外交問題評議会(CFR)は,機関紙『フォーリン・アフェアーズ』の日本語版2008年7・8月合併号に,著名な民主党系エコノミストであるC・フレッド・バーグステンの「米中によるG2の形成を」と題する論文を掲載した。英語版での原題は“A Partnership of Equals”,すなわち「対等なるものの協力」であり,中国を米国と「対等」な相手と位置づけている。

  同論文の主旨は,「古い問題,新しい問題に関係なく,基本的なアイデアはアメリカと中国がG2を形成し,両国がグローバルな統治プロセスの主導役を担うことだ。もちろん,EU,また案件次第では日本のような他の主要勢力もこのプロセスに関与させる必要がある」という一節に集約されている。これは,公然たる,日米同盟の解消および米中同盟の形成の提案である。少なくとも,日米同盟を米中同盟に従属させることの提案である。

  すでに2005年9月21日,当時の米国務次官であったゼーリックは,中国に対して国際社会の「責任ある利害関係者」(a responsible stakeholder)になることを要求した。その延長に米中G2が提案されたのである。

  米中G2は静かにしかし着実に形成されつつある。

  すでに世界銀行のチーフ・エコノミストは2008年から中国人の林毅夫が務めている。1980年代の絶頂期の日本が手に入れることができなかったポジションである。

  また,新型インフルエンザの世界的大流行(パンデミック)防止を託されている世界保健機構(WHO)の最終決定権を持つ事務局長は中国人の陳馮富珍(マーガレット・チャン)であり,インフルエンザ対策の責任者で事務局長と事務局次長に次ぐポストである事務局長補代理は米国籍の福田啓二(ケイジ・フクダ)である。

  新型インフルエンザのパンデミック対策の意思決定は,事実上,米中G2で行われており,フェーズ4から5への引き上げは福田啓二の助言を受けて陳馮富珍が独断で決定した。

  日本はWHOの意思決定の蚊帳の外に置かれたまま,日本人特有のマスク姿が世界に報じられた挙句に”Japan flu”(日本風邪)という名称が今回の新型インフルエンザに付けられた。

  世界を同時不況に陥れている米国発の金融危機も米中G2で対処することを,中国が提案している。

  今年4月にロンドンで20箇国金融サミット(G20)が開催される直前の3月末,中国人民銀行の党委書記と行長(総裁)とを兼務する周小川の名義で発表された「国際通貨システム改革についての考察」と題する論文は,IMFを米国G1指導から米中G2指導に改革した上で,IMFの特別引出権(SDR)の機能を強化し,その裏付けとなる通貨バスケットに現行のドル,ユーロ,円,英ポンドの4通貨だけから人民幣を含むものに拡大してドルに替わる基軸通貨にすることを提案している。

  中国は米国債そして米国政府機関債の最大保有国であるから,米国が中国の提案を拒絶すれば中国が米国債・米国政府機関債を大量売却し,それらの債券の価格が暴落する恐れがある。中国の提案が実現すれば,ドル暴落を回避するのと同時に人民幣を国際通貨化することになり,米中G2を国際金融面からサポートすることになるものと考えられる。

  米中G2は軍事面でも形成されつつある。今年3月,中国は航空母艦建造を宣言した。それに対して米国は財政難から航空母艦の建造ペースを遅らせることを決定した。すでに米軍は沖縄から撤退してグアムに移転した。いずれ米軍はハワイに撤退し,米中G2が太平洋の制海権を東西二分することになると,かねてから中国は宣言している。

  米国発の金融危機による世界的大不況の中で日本経済は戦後最大のマイナス成長に陥った。それに対して中国経済は減速しながらも成長を維持しており,早ければ2009年中にも中国は名目国内総生産(GDP)で日本を抜いて,日本に替わって「世界第二の経済大国」となると予測されている。日本の貿易収支は赤字化し,日本の貯蓄率は高齢化と人口減少とによって低下している。いずれ日本は経常収支が赤字化し,米国債さらには米ドルを買い支える余裕を失うことになるだろう。

  ジャパン・マネーの切れ目は日米同盟の切れ目である。日本人が現実から目を背け,思考を停止したまま,現状の延長線の上を推移すれば,いずれ日本は中国の航空母艦が遊弋する西太平洋の片隅で没落への道を孤独に歩むことになるだろう。


田代 秀敏 : ユーラシア21研究所 客員研究員