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2010年05月17日更新
「普天間基地」移設問題の本質について

岡本  智博

    
  「普天間基地」移設問題の議論が沸騰している。しかし、沖縄に駐留している米海兵隊が8000人削減され4800人になることが、米国の軍事戦略の中でどのような変化が起きて、新たな戦略の中で沖縄駐留の海兵隊はどのような役割を担うことになったのかについては、誰も疑問に思わず、あるいはまったく知らず、また、マスコミも全く報道しない。こうした本質的な問題を看過して、また、安保条約第6条に言う施設・区域の提供が米国の我が国防衛への参画の条件であることも看過して、“米軍は少なくとも国外か県外へ”とか、“徳之島に訓練の一部を移転で”といったスローガンが飛び交い、さらには、“5月末までに決着しなければ鳩山首相はどのような責任を取るべきなのか”といったことにのみ焦点が当てられ、問題の本質が見失われたまま、議論が横行している。本質を見失い、細事末梢に囚われ、大局を看過する、日本人の悪い性癖である。

  ラムズフェルドの「10-30-30戦略」
  
「普天間基地」移設問題は、実はラムズフェルド国防長官(当時)が示した「10-30-30戦略」に大きくかかわっている。軍事分野におけるトランスフォーメーションの結果、米国は、海外に駐留する陸軍及び海兵隊の師団が軽量化されることにより、純作戦面からすれば、前方駐留(Forward Presence)という形式でなくとも緊急時に前方展開(Forward Deployment)することで各種紛争等に迅速に対応できる時代となった。これは、米空軍が実施する衛星誘導爆弾による精密爆撃が有効となったため、陸軍の砲兵の役割を空軍が実施するところとなり、陸軍は、カノン砲や榴弾砲といった重火器装備の帯同を局限することができ、重戦車の随伴も局限可能となり、結果として、軽量な部隊規模で作戦を遂行することが可能となったことに起因する、師団の軽量化、結果的には、師団編制から旅団編制へのコンパクト化が進行し、重火器等が邪魔していた迅速・至短時の機動展開が可能となり、その結果、予めの前方展開を必要としない時代が到来したからである。

  しかしながら平時において紛争を抑止する機能を重視すれば、事前に前方駐留(Forward Presence)しておくことには意義があること、しかしその規模は、これまでと比較して格段に小規模な部隊であっても初動の対応が可能となったことが認識され、たとえば韓国では現在、2万5000人の米陸軍の前方駐留が李明博政権から米国に要請され、韓半島ではそのような戦略態勢が定着したのである。

  さらに、このような変容(トランスフォーメーション)を論拠として米国は、グアム島を本格的な軍事拠点として確立することを自国のアジア・太平洋地域における米国の軍事戦略として位置づけ、あわせて緊急時に本格投入する部隊をグアムに配備し、東アジア・太平洋地域における領域の防衛強化に当てることを目標として、グアム島において、軍事力建設を開始している。その戦略が、ここに言うラムズフェルドの「10-30-30」戦略なのである。

  その戦略を簡単に説明すれば、ある地域に紛争が発生した場合、戦域に「10日以内」に展開するとともに、敵を「30日以内」に撃破し、その後「30日以内」にその他の地域に機動展開して、次の紛争に対処するための戦闘可能な能力を確立する。そのような能力の獲得を目標とするという軍事戦略なのである。

  沖縄駐留海兵隊の役割
  
それではそのようなラムズフェルド軍事戦略の中で、沖縄に所在する米海兵旅団はどのような役割を担っているのか。これが二つ目の疑問となろう。しかし、その解説に移る前に、東アジア地域におけるトランスフォーメーション後の米国の軍事態勢について、少しく言及してみたい。

  2003年、ラムズフェルド国防長官(当時)は、先に述べたようなトランスフォーメーションが軍事分野で起きていることをいち早く認識し、韓国の盧武鉉政権(当時)からの要請もあったため、「2003年までにソウル以北の米軍を移転させるとともに、2016年には全在韓地上軍を撤退させる」と言明した。具体的には、37,500人の在韓米陸軍部隊のうち、当初、12,500名を帰還させ、その後、25,000名を2度に分けて撤退させて、最終的には全面撤退するという方針を示した。

  しかしながら現在の李明博大統領は、米陸軍の全面撤退方針の見直しを米国に要請し、結果的には25,000名の米陸軍が韓国に駐留を継続することで決着した。これは、前方駐留は時代遅れではあるというものの、政治的には、平時の抑止力として前方駐留することに意義があるとする米国防省の意向が働いたと考えられ、李明博政権もまったく同様の認識で、米陸軍の駐留の継続を受け入れたからである。

  他方、それならば沖縄からの米海兵隊の撤退については、日米間にはどのような話し合いがあったのだろうか?残念ながら、具体的な説明は我々には届いていない。米海兵隊を7,000名撤退させるとか、これを8,000名にするといった具体的な数字が示されても、日本政府からの特別な反応はなく、昨年のグアム協定では、約8,000名の米海兵隊員及び約9,000名のその家族のグアムへの移転という内容が示されているだけで、その穴埋めとして、沖縄における陸上自衛隊を増強すべきか否かといった議論などはまったくなかった。こうした我が国政界の怠慢が、あるいは無知が、いずれの政党も国家の防衛・安全保障政策をないがしろにし、鳩山首相の『抑止に対する理解不足』への反省という形で露出したのではなかろうか。

  さて話を本論に戻し、「普天間基地」には第3海兵旅団の航空戦闘部隊が配備されている。しかし、在沖縄米海兵隊はそれが全てではなく、総勢4,800人で第3海兵旅団が編成されている。トランスフォーメーション前は12,800人であったが、トランスフォーメーション後はグアム島に第3海兵旅団の主力1万人が配置される計画であるので、本格的な投入部隊はグアム島に所在することとなる。しかし、こうした本格的投入部隊がグアム島から紛争地に機動展開するためには約3~4日を要する。そこで、紛争が発生すれば直ちに初動対応部隊として沖縄駐留の部隊が緊急展開し、橋頭堡を形成し、他の部隊との調整を実施し、約3日間の戦闘を維持する。そして、グアム島からの本格的対応部隊の来援を待つのである。筆者は、グアム計画全体を知悉して、以上のように米国の戦略構想を理解した。ちなみにトランスフォーメーション以前は、本格的対応部隊である第3海兵師団は米本土に位置していたので、たとえば東アジア地域への機動展開のためには、3週間を要することとなっていたのである。

  第3海兵旅団の部隊編制
  
これまでの説明を総括すれば、第3海兵旅団の戦略的価値は、“平時の抑止力及び緊急時の初動対処能力を保持することによって、東アジア・西太平洋地域の平和と安全に寄与する”ことであると、意義付けることが出来るわけである。

  その第3海兵旅団の部隊編制は次のとおりである。
    地上戦闘部隊(Ground Combat Element、GCE)キャンプ・ハンセン
    航空戦闘部隊(Aviation Combat Element、ACE)普天間基地
    兵站戦闘部隊(Logistics Combat Element、LCE)牧港補給地区
    指揮部隊(Command Element、CE)キャンプ・コートニー

  第3海兵旅団は上述のような戦力を元に、自己完結性を確保して任務についているわけであり、これらの部隊は、相互に近接して所在していなければ、自己完結性が失われ、前方駐留の意味を失うこととなる。このうち『普天間基地』に所在する航空戦闘部隊は、「在沖縄米海兵隊の航空能力に関し、①ヘリなどによる海兵隊陸上部隊の輸送機能 ②空中給油機の運用 ③緊急時に航空機を受け入れる基地機能 を有している」(平成21年度防衛白書から)わけである。 そしてまた、航空戦闘部隊と地上戦闘部隊の離隔は120マイル以内でなければならないとする、米国政府の説明の根拠もここに存在するのである。

  さて、「普天間基地」に所在する部隊の細部は次のとおりである。
    海兵隊普天間飛行場司令部、第1海兵航空団第18海兵航空管制群、
    同航空団第36海兵航空群、同航空団第17海兵航空支援群第172海兵航空支援中隊、
    その他

  このうちグアムに移転される部隊はつぎのとおりであるが、先に述べたように自己完結性を維持するためのそれぞれの機能の一部は、当然、沖縄に残置されていることを理解しておくべきであろう。
    移転を予定されている部隊:第3海兵師団 (ⅢMEF=The 3rd Maritime Expeditionary Force)
    約8000名の要員及び約9000名のその家族(主としてキャンプ・ハンセン)

  このうち約8000名の要員に含まれる部隊等は次のとおりである。
    ⅢMEF指揮部隊(キャンプ・コートニー)
    第3海兵師団司令部(キャンプ・コートニー)
    第3海兵兵站戦闘部隊司令部(キャンプ・キンザー:牧港補給地区)
    第1海兵航空団司令部(キャンプ・バトラー:瑞慶覧)
    第12海兵連隊司令部(キャンプ・バトラー:瑞慶覧)

  以上のような理解が進めば、「普天間基地」には、沖縄に駐留する緊急対応部隊のための緊急展開に不可欠な輸送手段が存在しており、そのうち、KC-130空中給油機といった大型機は岩国に移駐し、ヘリなどの海兵隊陸上部隊の輸送機能が、キャンプ・ハンセンに近い場所に残留し、体制を確立しようとしていることがご理解できよう。

  上述のアンダーラインの部分の候補地が、辺野古地区なのである。

図1
  上のチャートは、米軍から譲渡されたものであるが、この方が具体的な理解の一助としてきわめて有効である。

  話は一転するが、「読者の皆さんは、自分のブーツなり靴をどこにおいておりますか?やはり身近なところにおくでしょう?・・・・・・」 すなわち、いざというときに自分の足となる輸送手段をキャンプ・ハンセンに位置する海兵隊陸上部隊に近接したところに置いておく必要があるということは、明々白々な条件なのではなかろうか。

  もし逆の発想をするのであれば、キャンプ・ハンセン及び辺野古地区、すなわち、米海兵隊の陸上部隊、航空部隊、支援部隊の全てを受け入れることが出来る移設場所があれば、それは戦術的合理性を満たすであろう。このように考えてくると、辺野古地区に建設しようとしている輸送部隊を、徳之島とか、マリアナ諸島の島とかいう議論は、まったく的がはずれている議論であるということが分かるはずである。

  米軍に対する施設・区域の提供は、決して沖縄に任せていればよいというものではない。現に、横田、横須賀、岩国、厚木、三沢、佐世保など、本土にも多くの米軍に対する施設・区域の提供が行なわれている。問題は、沖縄にその負担が偏りすぎていることである。この実態をどのように解決するか。米軍に対する施設・区域の提供を止めるのであれば、自国による防衛体制を大きく見直さなければならない。自衛隊の量的・質的拡大も必要となろう。このような意味で、「普天間基地」移設問題は、優れて我が国の防衛・安全保障問題そのものなのである。従ってこの問題は、国民が挙げて考えるべき課題であり、沖縄に委ねておけばよいということではないはずである。 

図2
  日米の政府間協定である「在沖米海兵隊のグアム移転に係る協定」、通称「グアム協定」は、まさに政府間協定であり、政権交代であってもその大枠は遵守されるべきものであろう。米国も微修正は受け入れる用意があるとしており、その限度において、現時点では決着を図る必要がある。

  他方、沖縄に安保条約第6条が示す施設・区域の提供義務を75%も負わせているままの現状は、他の都道府県の鼎(かなえ)の軽重を問われる事態である。かかる現状の中で最近では、岩国市が厚木市からの海兵部隊の受け入れを容認しているのである。この例に見られるように、沖縄からの海兵部隊の移転を受け入れるためには、海兵隊員4800名を含む航空戦闘部隊を受け入れる必要がある。そのような制約の中であえて火中の栗を拾う覚悟をもって提案するのであれば、現在存在する陸上自衛隊駐屯地と沖縄のキャンプ・ハンセンとの施設・区域の交換により、海兵隊陸上戦闘部隊の受け入れ場所を定め、これを基礎にその他の部隊を受け入れることが出来る地域を見出す必要があろう。これも全て、移設される部隊を受け入れる県民の理解と覚悟が必要不可欠であり、その対象となった全ての機関や部隊との調整の必要性を含め、決して単純なことではないが、将来、我が国の政治課題として時間をかけて取り組むべき課題として、具体的には次のように考えてはどうであろうか。すなわち、辺野古地区には将来は民間空港に移管されることを条件に、微修正を含む現行案で米海兵隊の航空部隊移駐施策を了承する。そして、米海兵隊の陸上部隊の移設先として、長崎県佐世保市相浦に所在する陸上自衛隊駐屯地を明け渡す。代わりに陸上自衛隊はキャンプ・ハンセンに移駐し、新たな駐屯地を開設して陸上自衛隊の沖縄配置を実現する。そして、米海兵隊航空戦闘部隊は長崎空港に移駐し、民間との共用により、新たな部隊運用を開始する。長崎県の佐世保には、米海軍のLCAC部隊が存在するので、米海兵隊としては、作戦運用は更に効率的になる。当然のこととして、政府はこの計画を実現するに必要な手当てを考慮する・・・・というものであるが、いかがであろうか。

  最近の情報によれば、米海兵隊は、CH-53E大型ヘリの後継機として垂直離着陸機MV-22オスプレイを考慮しているようである。このような航空機の移駐も考慮に入れた、包括的な検討が必要であることは言うまでもない。MV-22は離発着時にプロペラが上に向き、ヘリコプターのように上昇・下降が可能となっているため、垂直離着陸機と称されている航空機で、最高速度は300ノットを超えるほどであり、航続距離も空中給油を受けた場合、約3700Km以上といわれ、世界各国が注目している新鋭機である。

  以上、「普天間基地」移設問題について縷々解説してきたが、今回の結論をまとめてみると、沖縄に残留する4800名規模の海兵隊は平時の抑止及び有事の先行投入を予期されている部隊であること、本格的対応のための部隊はグアム島及び米国本土に位置していること、従って沖縄の海兵部隊は自己完結性を維持してこそ、その任務を遂行することが出来る部隊であること、そのためには戦闘部隊のみならず、指揮機能、後方部隊、輸送部隊等は一体的に存在しなければならないことなどを理解したうえで、「普天間基地」がその自己完結性のなかで果たす役割は、戦闘部隊の輸送機能であるので、戦闘部隊と一体的に位置づけられる場所に存在しなければならないこと、本格的な米海兵隊の移駐先は、国民が、そして県民が、国家の防衛と安全保障をじっくりと考慮したうえで建設的に考える必要があるということ・・・・といったところであろうか。

  そしてこの機会に読者諸兄には是非とも、その他の在日米軍基地ならびに可能であれば在韓米軍の現状を理解し、「グアム島における米国の軍事建設」を理解するとともに、これらを通して米国の東アジア・太平洋地域の軍事戦略を理解していただきたい。そのような考察が、東アジア・太平洋地域の安全保障、また、米国と我が国の間における同盟関係の意義を真に理解し、その深化を推進していく上で重要なことなのである。この一文が、そのような考察の一助となるのであればまことに幸甚である。


岡本 智博 : ユーラシア21研究所・軍事問題主任研究員