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2013年05月20日更新
安倍訪露は北方領土問題解決への一歩

吹浦  忠正

    
  安倍訪露を「成功」と見る4つのポイント

  安倍・プーチン両首脳による共同記者会見はなかなか充実した内容で、この限りにおいては今回のモスクワでの首脳会談はきわめて高く評価していいと考える。以下、評価すべき5点を挙げたい。

  第1は、これまでの両国で交わした諸文書をすべて尊重すると確認したことだ。1956年の「日ソ共同宣言」も93年の「東京宣言」も、97年の「クラスノヤルスク声明」もその中に含まれるのは当然である。ロシアはこれまで、ともすれば両国で批准された「日ソ共同宣言」に別格の重点を置き、それを認めることがあたかも大きな譲歩であるがごとく、振舞ってきたが、客観的に言って、これは特筆すべきことではなく当たり前のことである。

  歯舞・色丹の2島(面積で4島の7%)の返還のみでは納得できなかったからこそ、「日ソ平和条約」には至らず、①日ソ間の国交回復、②日本の国連加盟へのソ連の賛成、③11年間も抑留されてきた1,000余名の方々の帰国を優先させたのであった。日本は以後、47年に亘って、国後、択捉の返還を求め、その帰属が決まってこその「日露平和条約」の締結であると、主張してきたのである。

  この間の彼我の力関係の相対的変化は言うまでもない。日本はその後高度経済成長を達成し、  世界有数の先進工業国となった。他方、超大国ソ連は15の国々に分解し、崩壊し、加えて、シベリア以東の人口が激減し、石油・天然ガスに大きく依存する産業構造は将来の見通しを楽観できない状況にしている。とりわけ、昨今の米国によるシェールガス開発技術の飛躍的発展とそれを我が国が輸入できるようになったことは、日本にとって大きな朗報である。その結果、搬入コストを含めても従来の半値以下という格安での輸入を実現できることになった。同盟国アメリカから安定的に天然ガスを輸入できるということは、調達先の多様化の視点からも「エネルギー小国日本」にとって大きな期待を持ちうるニュースである。それはまたロシアにとっては注視しなくてはならない事態の現出であろう。

  日露両国関係はこうした両国自体と国際情勢の変化にあって、相対的に激変した。冷戦後、わずか20年で領土問題が片付くとは思えないが、その間にもさまざまな話し合いが持たれ、事態は少しずつだが進捗した。「東京宣言」や「クラスノヤルスク声明」は貴重な一里塚であるにかかわらず、ロシアは都合が悪いものは不当に軽視したり無視して、交渉の積み上げを視界に入れないようにしてきた。だが、そんなことでは首脳会談そのものが無意味になるだけで、それでは両首脳は互いに自身を軽量化してしまうことになる。

  今次訪露を評価する第2点目は、両国首脳が平和条約交渉に直接大きくかかわることを確認し、両国外務省に共同して交渉の加速化を命ずることを約束し合ったことだ。これにともない、両国の外相が少なくとも年に1回は相手国を訪問して会談を行うことになった点だ。プーチン大統領の訪日を具体的に絞れなかったのは残念だが、次回の会談はかなり重要なものになるだろう。

  第3は、当然のことながら、安倍首相の側から北方領土の返還さるべき範囲について「ロシア側のいう2島と日本側の主張する4島」との中間案などという無責任な数を発言しなかったことだ。これは重要な意味を持つ。日本側から数字を言う必要はまったくない。かつてメドヴェージェフ大統領(当時)は  就任まもない時期の「北海道サミット」で時の福田康夫首相に「新しい発想で」と平和条約交渉の推進を呼びかけた。このときには、「Show your card, first.」でよかった。日本側は4島一括返還の主張でいいのだ。そのためにどうすべきはまず、ロシア側に言わせるのがいい。

  第4は、プーチン大統領が日露関係とロシアにおける日本の協力の内容についてしっかりと把握し、それをこの会見を通じ、ロシア国民に具体的に説明したことだ。これを聴いたロシア国民に、日本は  中国や韓国とはまるで違う、ロシアにとって「価値ある隣国」で  あり、補完性の極めて高い国同士であり、戦後、平和条約が67、8年間も結ばれていないのは異常であるということを周知させたことだ。

  両首脳の会見場には日露両国の国旗が3流交互に並べられていた。最近はこの方式による二人の首脳の共同記者会見というのが、 どうやら世界的な流行?という感じがする。 国旗を背負う安倍、  プーチンのお二人が簡単に妥協できるとは思えないが、さらに個人的信頼関係を深め、北方4島の帰属の問題を解決してくれることを、「両国のために」期待したい。

  

  政治・経済の安定と拡充に努め「天の時」を捉えよ

  しかし、まもなく5年に1回開催されるTICAD(アフリカの開発に関する東京国際会議)の5回目の  会議が横浜で開催されるが、さて、前回ホストを務めた日本の首相は?となると、これはもうクイズの世界である。正解は福田康夫氏。その後、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦の各氏が総理を経験し、そして今度は安倍晋太郎首相がホストである。会議には54カ国から首脳が参集する予定だが、とかく政治が不安定とされるアフリカであってもかくも政治指導者が転変とする国は一つもない。

  それでも7月の参院選を前にこの約半年、安倍政権は衆院での絶対多数と、最大野党である民主党の自己崩壊的衰退、加えてアベノミクスの創出による好況ムードの中での参院選では与党圧勝の勢いである。政治的に日本は外交課題に挑戦できるベクトルに向かいつつある。

  一方、ロシアのプーチン大統領は21世紀に入ってから13年間、実質的に最高首脳であり、これからも少なくとも5年、あるいはさらに6年間、大統領を続ける可能性さえある。昨今の、プーチン大統領の支持率は40~60%台であり、しかも下降傾向にある。これは政治的にいささか緊張を要する位置に  あると言っていい。

  経済的にロシアを見れば、確かにモスクワやサンクトペテルブルクはかつてない盛況と活気を表出し、諸条件が重なっているとはいえモスクワでは、極度の交通マヒが日常というほどの活気を示し、 24時間都市の様相を呈している。 この10年で、 市民の所得はざっと5倍に跳ね上がった。 しかし、 シベリア・極東地区の石油・天然ガスに大きく依存した産業構造を支える極東の人口は、かつて830万を数えていたのが約600万人に激減。将来を展望する上で、安穏としていられる状況ではない。隣接する中国東北部には1億以上の人が住む。中国はロシアにとって最大の貿易相手国であり、「戦略的パートナー」ということになっているが、その実、アンビバレントな評価の混迷があると言わざるを得ない。

  その上、アメリカにおけるシェールガスの産出、そして日本からさえ、メタンハイドレートの世界初の採取に成功とのニュースが飛び込む。そこでロシアの目は当然、もう一つの隣国日本に向く。そこは安定した社会であり、高度な科学技術力を保有し、資源の輸出に当たっては大きな市場でもありうる。軍事的な脅威はない。 日露はきわめて補完性の高い関係だと言える。 極東地区での放棄農場の 再生で、 農薬を大量に使用する中国人を排除し、 北海道の農業会社に協力を求めるという昨今の 動きは現況を端的に表している。

  総じて日本はロシアに対し 「天の時を待つ」 でいい。一般的には待つほど有利な傾向にある。その間に、「イッポン」勝ちを目指しつつも、総合的に北方領土問題を解決する策を探る 「ヒキワケ」 の形を探る必要がある。プーチン大統領が政権を握っている間にと限る必要はない。旧島民の高齢化という問題は解るがこれは主権の問題であって、旧島民だけの悲願ではない。道東地区への特段の配慮は大事だが、4島返還の立場を譲ってはいけない。安易な譲歩をしては他の課題でも日本が国際社会でなめられるだけだ。

  日本は政治、経済の安定と拡充をめざしつつ、矜持を保ち、領土交渉に当たるべきである。


吹浦 忠正 : ユーラシア21研究所理事長